腹が減って、呑みたくなって、いかついおっさんが出てくる映画 『苦役列車』(ネタバレあり)

苦役列車』を観た。大変おもしろかった。ノートにグダグダ書いたがまとめきれないので箇条書きにする。



腹が減る映画はいい映画だ

・貫多の汚ったねえ食い方が素晴らしい。最近観た中だと『哀しき野獣』の主人公がいい食べっぷりを見せつけていたが、方向性は違えどそれに匹敵する。

・食べ物の描写も素晴らしい。特に食堂のめし。ぼっそぼそになっためしを山盛りにして味噌汁をぶっかけて掻っ込むんだけど、すげえうまそうだった。で、森山未來がまたうまそうに食うんだわ。言い過ぎかもだけど、勝新版の座頭市を思い出した。


呑みたくなる映画はいい映画だ

・場末感たっぷりの居酒屋がたまらん。雑な野菜炒めで瓶ビール呑みたい。
らもさんが「野良仕事後のたばこがなんともうまそうでうらやましい」って書いていたけど、肉体労働後のビールはうまいだろうな。うらやましい。

・貫多ん家での部屋呑みもいい。テーブルすらないから畳にコップを直置き。つまみは確認できなかったけど、まあ、するめ辺りだろうな。
中村航『突き抜けろ』の木戸さん家を思い出した。


貫多について

・正二と初めてご飯を食べるシーンがいい。

同い年ってだけですぐに打ち解ける貫多。

正二のつまらない冗談に口の中をごはん粒でいっぱいにしながら不細工に笑う貫多。

今までの生き方に「かっこいいよ」と言ってくれた正二の顔を、正二からは見えない角度で恥ずかしそうに、でもうれしそうに見つめる貫多。

たまらん。

・正二に出会うまで貫多は孤独だったけど、ありがちなキャラみたく拒絶したり虚勢を張ってたりしている訳じゃない。寂しくてしょうがないし友達が欲しくて欲しくてたまらない。その思いは隠してはいるけど、ちょっと突かれただけですぐにあふれ出てしまう。このあふれ出る感情がたまらなく魅力的。

・貫多がダメなのは、そのほとんどが「人とどう付き合ったらいいのか分からない」ってのに起因している。そして、その原因になったのは父親の性犯罪からの一家離散。このとき、「俺はわるくない」と言うこともできたのに、貫多はそうすることなく「どうせ性犯罪者の子供ですよ」と卑下することを選んだ。
どちらがよかったのかは分からない。「俺はわるくない」ということは自己憐憫に浸るということで、捻くれたクズになる可能性もある。自己卑下するということは、「人のせいにすることなく丸ごと自分で受け入れる」ということだ。だから、正二からの「かっこいいよ」という肯定の言葉を素直に受け入れることができた、とも言えるかもしれない。


細かいところで

・後半、貫多の語彙があからさまに増えている。口論になるシーンが増えているからってのもあるけど、おれは「小説を書き始めたから」なんじゃないかなと踏んでいる。
ラストシーンの原稿用紙がゴミの下に埋まっていたのも、前に書いていたことがある、ってことだし。
きっかけは、もちろんスナックでのマキタスポーツ

・初めてあっちゃん家に行ったのってあっちゃんのバイトの後だよね?部屋に入ったらいきなり朝になってたからてっきりヤっちゃったのかと思ってたけど、あれはどういうこと?

・その後あっちゃんの手を舐めるけど、その直前にあっちゃんはじじいのちんこをさわってんだよね。貫多は気付いてないみたいだけど。

・ライオンズの帽子を被ったいかついおっさんのいかつさがいい。*1いかついおっさんが出てくる映画はいい映画だ。

・あと、正二って、あれ童貞だったよね。

*1:AV男優の花岡じった(柳光石)とのこと